スガダイロートリオ、5年ぶりの新作!

ツアーファイナルは7月8日(月)渋谷WWW!!

メンバーチェンジ後、初のフルアルバムは、オリジナル楽曲に加え、デューク・エリントン、セロニアス・モンク、ジョージ・ガーシュイン、ハービー・ニコルス、市野元彦のカバー曲など、ユーモア溢れる楽曲を収録。

Revue : 

心に寄り添う鈍く深い輝き –新生スガダイロートリオ所感-  吉田隆一 (SF音楽家)

 

ジャズという音楽は、演奏技法が音楽の内容そのものであったりもします。例えば音楽を通じて表現したいテーマのために技法を用いるのではなく、技法を「聴かせる」こと自体が音楽のテーマとなったりもするわけです。ではそれは空疎な技術披露に過ぎないかといえば、必ずしもそうではありません。音楽家が演奏に入り込むことで無防備となる瞬間に、凝り固めた自意識によって隠し通そうとしている「精神の輝き」がかえってよく見えたりもするからです。

 

スガダイローというピアニストはそうした「自意識に凝り固まった音楽家」ではありません。飄々として、溌剌として、人を惹きつける魅力的な人物です。しかし時に彼の音楽からは、繊細で内向的な心の陰影が垣間見えたりもするのです。喩えるならサム・ペキンパー監督の映画が渇いた暴力を通じて感傷的な美意識を描いたのと印象が重なります。異なる点は、ペキンパー作品のそれは意図的な演出であるのに対し、ダイロー氏の音楽から時折感じ取れるナイーヴさは演出では無い、ということです。美意識の隙間から射す鈍く深い輝きに聴き手は打たれるのです。

 

そして、新生スガダイロートリオ『公爵月へ行く』は、そうした真摯な輝きと色彩に満ちたアルバムなのです。

ダイロー氏は時折「ピアノと言う楽器は伴奏だから」というようなことを言ったりもします。ピアノとは管楽器やヴォーカリストの「歌」をサポートする役割の楽器である、という認識を持っています。彼のサポートの方法は「感じ取り、反映する」というものです。アンテナを張り巡らせ、他者の一挙動に反応して自身の演奏にフィードバックさせ、有機的な関係性を築きながら音楽を前進させます。

 

そんなダイロー氏にとってピアノトリオとは、ピアノの伴奏としてのベース、ドラムという関係ではなく、三者の立ち位置が刻々と変化し続けることを前提とした対等な関係を持つ編成であるはずです。その意味において『公爵月へ行く』を録音した新たなるスガダイロートリオの人選には興味深いものがあります。

 

本作の楽しみ方のひとつに、ドラムの今泉総之輔氏に対するダイロー氏の信頼と緊張感を、その演奏から聴き取るということが挙げられます。今泉氏のアプローチに対するダイロー氏の反応から、ジャズ史上の偉大な作編曲家ギル・エヴァンス氏が好んで引用していたというチャーリー・パーカー氏の言葉が思い出されます。

 

「音楽ってのはイエス……イエス……イエス……ノー……イエス……イエス……ノー……ノー……イエス……」(ローラン・キュニー『ギル・エヴァンス音楽的生涯』より)

ジャズでは、演奏者同士の関わり方と在り様を「インタープレイ」という言葉で表現したりもします。演奏者が互いにアプローチとフィードバックを繰り返し、その連続的な相互作用が音楽を動かす様を表す言葉です。ダイロー氏はトリオに限らず様々なシチュエーションにおいて、ドラマーが提示するアイデアに対して瞬間的な肯定と否定を繰り返し音楽を推進させます。新生トリオのドラマーである今泉氏のビートとアプローチは(ダイロー氏がこれまで共演してきたドラマーの中でも特に)現代的です。そしてダイロー氏が求める(決して奇抜なものではないのですが)アイデアの瞬発力をもっています。本作において今泉氏の現代的なビートとアイデアの瞬発力はダイロー氏のピアノのアプローチに明らかに影響しています。それは音の選択のみならず、いつにないタッチの使い分け……非常に柔らかな音の立ち上がりを生み、それが先に述べたような「鈍く深い輝き」を際立たせます。

 

ベースの千葉広樹氏の貢献度の高さにも注目です。ジャズのみならず様々な音楽言語を操る千葉氏のベースはクラシカルな美しさとポップな明瞭さを兼ね備えています。「見通しが良い」と言い換えることもできるでしょう。三者の中で常にメタなポジションをキープし、要所で音楽を整理し、さりげなく「今どのような状況になっているか」という位置情報を指し示します。具体的には、提示されるビートに対し、単純に他者と同じアプローチを重ねず、必要最小限の音を、ビートのツボともいえるタイミングで聴かせることにより「情報」が飽和することを防いでいるのです。それにより音楽はより立体的なものとなります。そして聴き手にとってもビートの要点を指し示す指標ともなります。「見通しが良い」とはそういった意味です。

 

また千葉氏は(柳樂光隆氏によりダイロー氏インタビューによれば)本作のサウンドデザインにも大きく関わっており、千葉氏のセンスが本作のポップな現代性に磨きをかけているとも言えます。またベースの音色の美しさは(先に述べたドラムのアプローチとともに)ピアノのタッチに影響しているはずです。千葉氏の存在が音楽の立体感と陰影を生み出しているのです。

 

そして特筆すべきは本作におけるダイロー氏のピアノの色彩感です。タッチの幅が音色の幅を広げています。ダイロー氏の音色といえば白銀に輝く刃のごときクールな美しさをイメージしますが、新生トリオでは「暖色」と呼ぶべき柔らかく暖かな響きも立ち現れているのです。三人の相互作用の結果です。そして自身から引き出される音をダイロー氏が楽しんでいることが、この喜びに満ちた演奏から伝わってきます。

本作においてダイロー氏はミニマル的なアプローチを推し進めています。ダイロー氏のミニマルに対する姿勢にも興味深いものがあります。ミニマルという言葉から一般にイメージされる音楽は、スティーヴ・ライヒ氏によるものでしょう。実際、ミニマル的要素を取り入れた音楽の大半がライヒ氏の影響下にあります。

 

ライヒ氏のミニマルの手法の特徴は、時系列に沿った情報量のコントロールにあります。簡単に、いろいろ端折って説明しますと……同じフレーズを延々と繰り返すと、当然のことですが聴き手が受け取る情報は時間の経過とともに減少します。普通の音楽ならば様々な展開により情報量の減少を防ぐ(飽きさせない)わけですが、ライヒの場合はあえてある程度まで減少させ、一定時間が経過したところで微細な変化を聴かせます。単調とも言える繰り返しの中での微細な変化はそれなりに大きな変化として捉えられます。しかしあくまで微細なので情報量が極端に増大するわけでもありません。つまりライヒの音楽とは「聴き手が受け取る(受け取ってると感じる)情報量を一定に保つ」手法で成り立っているのです。

 

一方ダイロートリオのミニマル手法には大きな情報量の増減が聴き取れます。情報を減少するに任せたり、かと思えば極端な増大をみせたりもします。それはあたかも心の動きに沿って変化する呼吸の振幅のようです。繰り返される営みの中での自然な変化です。ダイロートリオはミニマルという手法の導入により、逆説的に人間らしい自然な揺らぎを獲得しているのです。

 

新生スガダイロートリオの音楽は、人の心の振幅、時と心の流れに寄り添い、刻々と変化する色彩であり、輝きなのです。本作はその貴重な記録です。折にふれて聴き返してみてください。そのたびに異なる心の在り様と共鳴するはずです。

 

長く幸福な音楽の旅を楽しまれんことを。

 

 

 

Comment :  

鈴木ヒラク (アーティスト)

スガダイローさんが、すごい速度で進化し続けている。ちょうど二年ほど前、ジェイソン・モラン氏も一緒に京都でセッションした時とはもう全く別の場所に居るようだ。こっちもオチオチしていられない、、。このアルバムは、人類は人力で月旅行ができるということを証明している。特に9曲目の「 I loves you porgy」は、こんなの聴いたことがない!これは未来のミニマルミュージックというのか?テクノであり、ダブであり、ロックでもあるが、やはりとことんジャズだと深く納得してしまった。ダイローさんは、ジャズを掘り下げてここまで辿り着いてしまったのか、遠くに飛んで行った先でジャズと再会、という感じなのだろうか?とにかく、これは希望の音だ。世界がガラガラと変わるのを超高解像度のスローモーションで見ているようだ。

 

 

⬇こちらも併せてお楽しみください。

 

柳樂光隆さん(Jazz The New Chapter ) によるスガダイローインタビュー

 

大谷能生さん(音楽/批評) による新作「公爵月へ行く」レビュー

『公爵月へ行く』2019 : a Flying Duke

千葉広樹(ベース)と今泉総之輔(ドラム)をメンバーにむかえ3年の歳月をかけて到達した新境地。新編成後、初のフルアルバムとなる本作は、今年生誕120周年を迎えたデューク・エリントンの楽曲から「Solitude」、「African Flower」を。またセロニアス・モンク「Off Minor」、ジョージ・ガーシュイン「I loves you porgy」、ハービー・ニコルス「Wild Flower」、市野元彦「Oceanus」のカバーに加え、オリジナル楽曲ではデューク・エリントンの楽曲をモチーフにした「公爵月へ行く」、『男はつらいよ』車寅次郎の名台詞からインスパイアされた「夏になったら鳴きながら、必ず帰ってくるあのツバクロさえも、何かを境にぱったり姿を見せなくなる事だって、あるんだぜ」、繊細なタッチが印象的なバラード「君の見る夢」などを収録。千葉、今泉の加入により、力強いグルーヴと透明感のある美しいサウンドに仕上がった本作は、ミニマルミュージック、ヒップホップ、ダブ、ロック、現代音楽など、メンバーのバックグラウンドを巧みに取り込み、ジャズのさらなる可能性を追求する一枚となっている。

● SUGA DAIRO TRIO'S I loves you porgy (Official Music Video)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● SUGA DAIRO TRIO'S  NEW ALBUM DIGEST

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■楽曲

1. Solitude / Duke Ellington

2. 公爵月へ行く / スガダイロー

3. African Flower / Duke Ellington

4. Wild Flower / Herbie Nichols

5. Off Minor / Thelonious Monk

6. Acoustic Kitty スガダイロー

7. 夏になったら鳴きながら、必ず帰ってくるあのツバクロさえも、何かを境にぱったり姿を見せなくなる事だって、あるんだぜ / スガダイロー

8. Oceanus / 市野元彦

9. I loves you porgy / George Gershwin

10. 君の見る夢 / スガダイロー

■アルバム情報

・販売価格:3,000円+税

・型番:VSP-0021

・JANコード: 4571475650213

・製造元:VELVETSUN PRODUCTS

・販売元:ULTRA-VYBE


 

 

スガダイロートリオ NEW ALBUM RELEASE TOUR

 

10/25(金) 荻窪 ベルベットサン

10/26(土) 大磯うつわの日 高来神社 

10/27(日) 名古屋 ジャズ イン ラブリー 

10/29(火) 松山 モンク

10/30(水) 岡山 蔭凉寺 

10/31(木) 奈良 廣栄堂 

11/1(金) 大阪 ミスターケリーズ 

11/2(土) 京都 Rokujian

11/3(日) 第4回たらふく収穫祭「無限めし祭り」in つじ農園 @千福寺

 

 

全公演のお問い合わせは 080-3732-4465、velvetsun.ticket@gmail.com (担当:中村)にて承っております。

主催:VELVETSUN PRODUCTS